きょうは加賀乙彦の「不幸な国の幸福論」のなかから定年後の人の生き方にや老いについて書いてある部分が印象に残ったので拾い出して書いてみます。
加賀乙彦は精神科医でもあり、小説家としても有名です。
この本は彼があとがきに「日本という暗い格差の大きい不幸な国、希望のない国において、幸福をつかむことはなかなかむずかしいことだと思いますが、私自身の長いあいだの精神科医としての経験や、小説家としての人間理解をいしづえにして人間の幸福とはいかにあるべきかを書いてみました。」と書いてあるように彼の現在の幸福論です。
定年後のことは、その本の中の4章「幸せに生きるための『老い』と『死』」のなかに書いてあります。
定年前後というのは、初老にさしかかり、環境の変化に適応する能力が低下してくることもあり、うつ病になる人も多い。特に仕事人間で、これといった趣味のない人、仕事がらみの人間関係しか持ってない人が危ないといっています。日本社会では、「どんな職場でなにをしているか」がそのひとの身分証明のように考えられていて、長く組織のなかにいるうちに、気がつけば「○○しゃで△△をしている」ことが自分のよりどころ、アイデンティティのようになってしまいがちです。
そうしたひとがそのまま定年をむかえるとうつ病になったりするばあいがある。加賀乙彦は40代になったら、肩書きを取り払った身一つの自分の問い直しを始め、リタイアするまえにその後の人生における目的を定めておくことをすすめている。
ひとは、人の役に立ち喜ばれることで自分がこの世に存在することの意味や価値を実感できるが、リタイアして社会とのかかわりが薄れると、その手ごたえをかんじるのが難しくなるという。そのためにはまず自分から心を開き、人とかかわろうとすることが大事だととく。
だれにも看取られずに亡くなり、死後数日、ときには数カ月もたってから遺体が発見される孤独死は正確なデータがないが年間の死亡者は2万5千人から3万人と推計され、その半分は高齢者であるという。
孤独死の危険性が高い人の生活習慣は友達がいない、挨拶をしない、人のことに関心を持たない、催しに参加しない、身内がいても連絡をとらないなど「ないない尽くし」だといわれている。
地域のかかわりが希薄化し、高齢者の独り暮らしが増えた今の日本において、孤立は孤独死という悲劇につながる。
またそうならなくても孤独は人間のこころをすさませ、弱らせ、体に悪影響を及ぼし、刺激の少ない孤独な生活は、認知症などの進行にも拍車をかけるという。
逆に、「暖かなつながりさえ持っていれば、家族がいなくても、経済面で恵まれていなくても心豊かに生き生きと生きていけるものです。」と説く。
人とつながり、絆を強める秘訣は自分から心を開き自分の弱さを隠そうとせず、自分と同じようにに弱さをもっている相手を1個の人間として尊重し向きあうことだという。人間いくつになっても目標を持ち、人とつながって生きていくことの大事さを教えてくれる本です。
集英社新書 加賀乙彦の「不幸な国の幸福論」